かふかログ

村上春樹『海辺のカフカ』感想文 / 僕を救ってくれた小説

f:id:myeinst:20170122204032j:image

 

人の心を救済する、そんな力をもつ物語

僕は、ある絶望の淵をさまよっていた時に、村上春樹の『海辺のカフカ』という小説に心救われました。それ以降、何かで人生つまずくたびに、どん底にいくたびにこの本を手にとります。 

僕が身をもって体験している通り、『海辺のカフカ』の物語には、乾ききった人の心を救済する力があります

よくある自己啓発本のように、はっきりとした人生の回答を与えてくれる訳ではありません。ただ、直接的ではないにせよ、僕はこの小説に何か生きる勇気をもらうのです。是非、心悩み苦しんでいる人には手にとって読んでほしいと思います。

 

 簡単なあらすじ

『海辺のカフカ』を含め、村上春樹の小説はとにかく読んでもらわないと、いくら僕が語ってもその良さは分かってもらえないと思いますが、以下に簡単なあらすじを綴っておきます。

 

15歳の家出少年

主人公は、内省的で自意識的なものに悩む「田村カフカ」という15歳の少年です。この少年が東京を出て四国へ家出しようと決意する、という所から物語は始まります。

東京から遠く離れた場所へ行き、何か自分にとって大切なものを見つけ出そうとします。四国で様々な人と出会い、困難をくぐり抜け、成長していきます。

15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。

なんだかおとぎ話みたいに聞こえるかもしれない。でもそれはおとぎ話じゃない。どんな意味合いにおいても。

上巻p12-13

 

「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年にならなくちゃいけないんだ。なにがあろうとさ。そうする以外に君がこの世界を生きのびていく道はないんだからね。」

上巻p11

 

ナカタさんという老人

この小説は2つの別々のストーリーが各章ごとに交互に展開される構成になっており、もう一方のストーリーは、知能障害をもった「ナカタさん」という老人の話です。 

 ナカタさんは、猫と話せます。まさに春樹ワールド。

「なかなか良いお天気でありますね」

「ああ」と猫は言った。

上巻p92

「えーと、それで、あんたは......ナカタさんっていうんだね」

「そうです。ナカタと申します。猫さん、あなたは?」

上巻p93-94

 ナカタさんという人物を、一言で表すとしたら、この世界の純粋さを集約した存在だと僕は思います。純粋で清らかすぎる心であるがために、矛盾と不条理に満ちたこの世界に適応できません。知的障害というレッテルを貼られて社会から疎外されています。

ただ、その代償として猫と喋ることができます。虚構(フィクション)という世界へ足を踏み入れる事ができる。村上作品の中でも希有なこの「ナカタさん」というキャラクターが物語進行の大きなキーとなっており、この小説の深みとなっています。

 

DSCF6284

 これら2つの別々のストーリーが物語を追うごとに徐々にクロスし、一気に終盤へと向かいます。現実と虚構に満ちた春樹ワールドを15歳の家出少年が駆け抜けていきます。

 

風の音を聞く。それは生きるということ。

色々な人と出会い、様々な出来事をくぐり抜けた15歳の少年でしたが、物語の最後で

 

「でも僕にはまだ生きるということの意味がわからないんだ」

下巻 p528

 

 と、大島さん (この物語の少年の指南役) に問いかけます。 

大島さんは、

 

 「風の音を聞くんだ」

下巻 p528

 

 と答えます。 

 

このラストシーンは『海辺のカフカ』の、いや、もはや村上作品の全てを物語っています。風の音を聞く。自分の内なる心に耳を澄ませる。生きるとはそういう事なのではないでしょうか

 "風の音を聴く" というのは、村上春樹自身の一貫した人生観だと僕は思っています。人生色々困難や悩みがあるかもしれないが、風の音に耳を澄ませるという諸行無常的な生き方。興味深いことに、村上春樹のデビュー作のタイトルは『風の歌を聴けなのです。 

参考までに:

myeinst.hatenablog.jp

 

是非実際に手にとって読んでみてください

『海辺のカフカ』は、村上春樹の代表作であり、海外での評価も高いです。家出少年の成長記として物語を追う事ができるため、読みやすい。かつ、春樹ワールドも堪能できます。僕がこの小説に心救われたように、人生で何か悩んだり躓いたりしている人には是非お薦めします

 

この物語を読み終わった時、どんなカウンセリングを受けるよりも、どんな自己啓発本を読むよりも、無意識の領域において"生きる勇気" をもらえるでしょう