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村上春樹『羊をめぐる冒険』感想文/ 村上春樹が本気で書き始めた作品

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村上春樹が本格的に長編小説に歩みを切った作品

『羊をめぐる冒険』は、鼠と主人公《僕》をめぐる村上春樹初期三部作の三作目にあたります。

 

『羊をめぐる冒険』を書くにあたり、村上春樹は長年経営してきたジャズ喫茶「ピーターキャット」を友人に譲り、専業作家として歩み始めます。後のライフワークであり彼の人生哲学にまで至るランニング《走るということ》を始めたのもこの時期です。

 

このような経緯もあってか、本作には『風の歌を聴け』や『1973年のピンボール』には見られなかった「物語を書くんだ」という意気込みが感じられます。きちんと一つの長編小説として物語を構築するんだという意志です。

 

参照:myeinst.hatenablog.jp

 

文体も前二作よりも冗長さが減り、少しタイトになっています。とにかく書きたいようになんでもいいから書くという意識から、読者というものを前にして、少しずつ言葉を選び始めました

 

基本的に『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』と同様に現代の空虚感を描いていること変わりはありませんが、本作ではそこから何か掴み取りたいという意志が感じられます。主人公の《僕》が羊を探すのと同じように。

 

 

春樹ワールドの現れ

又、非現実的な人物をリアルに描き出すあたりは、春樹ワールドが既に本作品において現れています。現実ではありえない人物設定ですが、いとも簡単に現実と虚構の境界線を超えてしまいます

 

上巻では、現実とフィクションの狭間で《僕》の羊をめぐる冒険が始まります。

 

 

 

↓下巻の感想は以下です↓
※結末ネタバレあり

 

Sheep


主人公《僕》、ひいては村上春樹の0の出発点

読後ほんとに何と形容していいのか言葉選びに苦しむ作品ですが、羊をめぐって、結局《僕》はどこにたどり着いたのでしょうか? どこにもたどり着いてないかもしれないし、どこかにたどり着いたのかもしれない。

 

ただ、1つの言えるのは《僕》と鼠の物語は終わったということです。1つの時代が終わったということ。鼠は何かしらこの "現代の歪み" のようなものによって自死しました。彼の死はその象徴のように思えます。

 

そして《僕》はこの鼠の死を受けて、以後生きていくことになります。《僕》は今までの人生の中で様々なものを失ってきました。最後に友である鼠をも失いました。失い続けた果てで、《僕》はこの0の地点から出発することになります。

 

これは村上春樹自身が本格的に小説家として出発した地点と同じに思えてなりません。この地点から世界にコミット(関与)する地平線へと向かっていきます。本当の意味で、村上春樹の作家人生はこの『羊をめぐる冒険』から始まったのです

  

以上

かふか